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関所も怖い、天下の険(東海道③ 箱根 → 三島)

小田原を抜けると天下の険、箱根八里の山越えが待っている。箱根宿は東海道五十三次のなかで最も高い場所にあり、その標高は約730m。急な山道に入り口数も減ってきたころ、前を歩くルーカスの方から異香が漂ってくる。その足元を見る […]

04/03/2013

小田原を抜けると天下の険、箱根八里の山越えが待っている。箱根宿は東海道五十三次のなかで最も高い場所にあり、その標高は約730m。急な山道に入り口数も減ってきたころ、前を歩くルーカスの方から異香が漂ってくる。その足元を見ると、見事になにかの糞を踏んでいた。「汚ないな、洗えよ」「これ糞じゃないよ」「いやいや、確実に糞だろ」。だがその時、目を落とした江戸時代のガイドブック『道中用心六十一カ条』には「山のなかで狐や狸に化かされないためには、わらじの底に牛の糞を塗っておく」とあった。本当か? 踏んだのは牛の糞ではなさそうだが、よしとして異香とともに峠を進む。
ようやく平坦な道に出ると、そこには400年前から営まれる甘酒茶屋がある。十三代目の山本聡さんは「離乳食も甘酒だった」という筋金入りの甘酒マイスターだ。砂糖を使わず、麹を使ったここの甘酒は、江戸時代から変わらぬほんのりとした甘さで疲れた体を癒してくれる。甘酒は苦手だったルーカスもすっかり気に入って、おかわり。「うちの甘酒は坂道が味つけですから」と謙遜する十三代目に見送られ、三島へ向けてさらなる上りの道をゆく。
行く手には箱根の関所にまつわる悲話の残るお玉ヶ池がある。1702年、江戸の奉公先から逃げ出した少女、お玉が関所を破ろうとして処刑され、その首を洗ったのがお玉ヶ池だという。箱根の関所は、徳川幕府に対して不穏な動きが起こらないよう「入鉄砲(江戸に持ち込まれる武器)と出女(江戸から出る女性)」を厳しく取り締まった要衝だ。出女に対する取り締まりについては後述するが、関所破りは死罪とされた時代において、お玉の死は見せしめとされ、後々まで関所=怖いという印象を植えつけたのだ。
 
This story originally appeared in PAPERSKY’s Edo Tokaido Road Issue (no.36)