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  • Yuya SarashinaPhotography: Itxaso Zuñiga Ruiz

インドの旅のパートナー、ヨガ講師・更科有哉さん

, 2012/08/06

視点をほんの少し変えただけで、それまで目に入らなかったものが見え、新しい気づきを得られることがある。アシュタンガヨガにおいて大切にされているもののひとつに、「ドリスティ」と呼ばれる視点のおきかたがある。手、鼻先、眉間、へそ、空など、アーサナ(ポーズ)ごとに見るべきポイントが決まっており、これを正しい位置に定めることで呼吸が楽になり、深い集中状態へと入ることができるという。つまり、より自分と深く向きあうことができる。

一方、世界を見ることにおいては、どうだろう。たとえば、インド。「混沌」「汚い」「危険」「鬱陶しい」といったインドについてまわる定石どおりのイメージ以外へと焦点を定め、あらためて見渡してみた場合は?

そこで登場するのが「クリーン」というキーワード。これまでとのイメージとは真逆とも思える平穏で美しい世界は、ここ南インドでは、目の前に広がる風景にも、そこで暮らす人々の生活のなかにも、簡単に見出すことができるだろう。

「こんなにきれいで、おしゃれな場所がインドにあるとは知りませんでした」というのは、アシュタンガヨガ正式指導者の称号をもつ更科有哉さん。毎年2~3ヵ月はケーララの隣の州にあるマイソールに滞在してヨガの修行をし、その合間を利用してはインドやネパールなどへ旅をしている。

今回、最初に訪れたのはケーララ州南部にあるコーチという都市にある、フォート・コーチというエリア。アラビア海に面して世界有数の貿易港をもつこの一帯は、ヨーロッパによるコロニアルスタイルの都市がインドで初めて形成された場所。最初に統治したポルトガル、のちにやってきたオランダ、イギリスといったヨーロッパの国々とインドの様式が混ざりあった町並みは洗練された美しさでありながら、コスモポリタン都市にふさわしい活気にあふれる。街中には歴史的建物を利用したホテルやカフェ、ギャラリーなどが点在している。

「そもそもが、こういう旅をインドでしようとは思いませんでした。だったらサンフランシスコやベルリンなど別の場所へ行ったほうがいいと思っていたので。でも今回、視点を変えたことで、インドでもこういう素敵な場所があるって気づくことができました。結局、自分がどうしたいか。考えかたしだいでいろんなことができる場所なんですよね。インドでもどこでもそうですが」

有哉さんがヨガを始めたのは、およそ10年前、25歳のとき。当時、俳優をしながら暮らしていた東京から、実家のある札幌へと久しぶりに戻り、仲間たちと一緒にスノーボードをしたときのこと。彼らが、突然始めたヨガに衝撃を受けたのだという。

「サッカーやスノボ、スキーばかりをやっていたから、ゆっくりとした動きが、単純に気持ちよかった。そして呼吸。それまでの生活で、呼吸に意識をおくということがなかったから、すごく驚きました。3日食べなくても死なないけど、3分間呼吸をしないだけで人間は死んでしまう。そのくらい呼吸って大事なことのはずなんですけどね」

当時、芝居に打ちこんでいた有哉さんは、役づくりのためにヨガを始めた……はずだったけれど、あっという間にヨガへと傾倒していった。とはいえ、女の人ばかりいるスタジオへ行く勇気もなく、しばらくは本やDVDなどを見ながら自主練の日々。3年くらいたったころ、いくつかの流派が体験できるスタジオに行ってみたところ、圧倒的な魅力でアシュタンガヨガに惹かれた。そのダイナミックな動きに魅了されたという。

練習をするのは毎朝1時間半から2時間ほどで、休みは1週間に1回。インドのマイソールにいるときも同様です。「朝2時半とか3時に起きるので、まだまわりは真っ暗。練習するのに適しているのは朝なんですよね。朝って空気もきれいだし、静かだし。神聖な時間に練習をすると、心と身体が浄化されていく。練習を積めば積むほど、クリーンでピュアになっていくんです」

毎日練習を重ねていくと、さまざまな変化が肉体と精神に訪れる。昨日できなかったことが今日はできるようになる、集中できなかったことが、できるようになる。その変化はつねにポジティヴで、身体がやわらかくしなやかになり、強くなっていったという。

とくに大きく変化したことは、失敗を恐れなくなったこと。「何回も頭を打ったり、転んだりしました。恐怖もあります。失敗したら痛みもあります。でも、単純な話ですけれど、失敗すればするほど、成功の確率は増えていきます。痛みをもって自分のことがわかってくるのです。そうやって、自分なりの取り組みかたが、だんだんとわかってくるんだと思います」

そして、訪れる変化に敏感になったことも大きい。「肉体や精神に関しても、人と人との関係においても、世の中、万物において変わらないものなんてありません。どうしても、変わっていくものなのだから、その変化に逆らうのではなく順応していくことを心がけています」

サーフィンならば、やってきた波に乗るということ。スノーボードならば、急な地形にさしかかったらそれに合わせた滑りかたをするのと同じこと。どちらも自分のやりかたを押し通すのではなく、状況とタイミングをはかりながら、自分を取り巻く世界とうまく折り合いをつけていけばいい。そうすれば、より積極的になることだってできる。

インドに生きる人々も「自分たちの状況を受け入れて生きている」と有哉さんは思っている。「たとえば、電車が決められた時間に来なくて、6時間遅れるということが普通。それでも文句を言わずに待っている。インド人はすごく忍耐強いところがあると思います。もしかしたら、それを忍耐と思っていないのかもしれませんが。それと、たとえすごく貧しい人でも、他人のものを盗もうという気がない。いまある状況のなかでなんとかしようという感じをすごく受けます」

今回の旅においても、有哉さんは次々と訪れる変化を楽しんでいた。直前になって行き先が変わったり、実際に行ってみないとわからないことも多々あったりしたなかで、悠然と構えている。「ビビらずに飛びこんでいっても柔軟にしていればなんの問題もありません。インドではいろんなことが起こる。旅行者はかならずふっかけられますよね。それが毎回だから面倒くさいけど、そうしたできごとさえも自分を映す鏡だと思って楽しめたら、いらいらしません。それよりも、楽しもうと思ったら見えてくるさまざまなできごと、美しい景色や人との出会い、音やにおい、まとわりつく空気など体感しながら、どんどん取り入れていたいと思っています」

ケーララをめぐる旅でとくに印象深かったのが、自然の懐の深さ。海岸沿いの崖の下に敷きつめたかのように繁茂する椰子の林、巨大な岩がごろごろと転がる茶畑、南インド特有の鮮やかな色で力強く咲き誇る花。そうしたものに出会うたびに有哉さんは感嘆の声をあげていた。これまで訪れた場所で、強力なエネルギーを感じたのはだんとつにゴアだったが、今回も同じくらい強い磁場を感じたという。

「やっぱり、自然の力って大きいですね。アシュタンガヨガでは、神様に練習を捧げることが大事とされています。それは八支則の2番目、自分に対して守るニヤマの項目に入っているイシュワラプラニダーナといって、献身的な姿勢でいること。だから、練習は神様に捧げる。それは自分の神様でいい。僕は無宗教なので、僕が思う神様は「自然」。自然なくして、人間は成り立ちません。それほど自然の力は強いものだと思っています」

 
更科有哉|さらしなゆうや|アシュタンガヨガ正式指導者
1977年、北海道生まれ。20歳で俳優を志し上京。独学でヨガを学びはじめた後、アシュタンガヨガ正式指導者であるクランティ氏に出会う。2008年から定期的にインド・マイソールに通い、2010年正式指導者資格(Authorization)を、2011年 Authorization Level 2を与えられる。2009年から、2度にわたって行い大成功を収めた車での日本縦断 Yogaの旅《INTO THE MIND TOUR》を今年も9月から開催予定。
intothemind.syncl.jp

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