Menu Links
  • Biosphere

ノルウェーの風土が生んだ音楽家|ゲイル・イェンセン

, 2012/01/17

ゲイル・イェンセンは、34日目に登頂に成功した。彼の登山隊で山頂を制覇したのは、彼と、同行したシェルパだけだった。早朝、朝日が東の空を照らしはじめたころ、ゲイルは、世界で6番目に高い標高(8,201m)を誇るチョ・オユーの頂きからはるか彼方のエベレスト山を見つめていた。腰を下ろすと、バックパックを開けてMDとマイクを取り出し、空気の薄い山頂で、風の音、氷雪が砕ける音、そして、自分自身の声を録音した。

5年後の2006年、ゲイル・イェンセン(アーティスト名は「バイオスフィア」)は、『チョ・オユー』と題したアルバムをリリースした。このアルバムには、チョ・オユーの登山中にサンプル音源としてレコーディングしたものと、登山中に彼が書いた日記をもとにしてつくられた12曲が収められている。

「自分の思いどおりに録音ができるようになるまでは時間がかかったね。コンセプトやアイデアに沿って作品をつくりたいから、自分のルールをつくって、音を落としこむ作業が必要なんだ」。

イェンセンは、80年代半ばから音楽活動をしてきた。トリオ編成のユニット、ベル・カントのメンバーであった彼は、自分のスタイルを追求するために、セカンドアルバムをリリース後にユニットを脱退。1991年、バイオスフィア名義での最初のアルバム『Microgravity』を、1994年には『Patashnik』をリリース。3年後にリリースした『Substrata』は、アンビエント・テクノ・ミュージックの傑作アルバムと絶賛された。内面の奥深くに浸透していくような曲調で、メランコリックなサウンドスケープが、リスナーをサウンドの渦に巻きこんでいく。ゲイルはノルウェー北部のトロムソの出身で、彼の音楽は北極圏的な音楽、ミニマル・ミュージック、また、北欧系音楽など、さまざまなジャンル分けがされているが、彼自身は自分の音楽をカテゴライズすることには無理があると感じているようだ。

「同じタイプの音楽を繰り返し発表するのは退屈だから、毎回違った音楽をつくるようにしている。アーティスト名は、アメリカのSF雑誌に載っていたアリゾナのバイオスフィアの記事から拝借したんだけど、バイオスフィアとは、すべての生命体を含む大気圏の一部という意味。それで、この名前をつけたんだ。数年前、ある男が僕のスタジオを訪ねてきて、スタジオにいっさい窓がないことを指摘したんだ。すばらしい景色が見渡せるスタジオだと思ったんだろうけど。で、彼がこう尋ねたんだ、「あなたには外向きの窓は必要なく、内面を見る窓が必要なんですね」って。ある意味、彼の分析は正しいと思った。僕はいつも頭のなかにあるイメージをもとに創作しているし、それこそが僕自身の内なる窓から見えるものなんだ」。

イェンセンの最新アルバムは今年2月半ばに完成、『N-Plants』というタイトルがつけられていた。インスピレーションとなったのは、日本の原子力発電所だった。アルバム完成から数週後の3月11日、東日本大震災が日本列島を襲い、津波と福島第一原子力発電所のメルトダウンが発生。イェンセンは言葉を失ってしまうほどの衝撃を受けた。

「気味の悪い偶然だった。アルバムは3月に発売予定だったけど、どう考えてもこの時期にリリースするべきではないと思った。それで発売日を延期したんだ。この作品は、原子力ではなく、建築にインスパイアされてつくったもの。70年代初頭に起こった刺激的な事象をモチーフにしたアルバムを制作したかったんだけど、ちょうどその時期に日本の原子力発電所のことを知ったんだ。写真を何枚も見ているうちに、この建物にとても興味を惹かれた。美しいブルーの海、白い砂浜、そして椰子の木が立ち並ぶ場所にある発電所が印象的だったんだ」。

イェンセン自身は、80年代にベル・カントのツアーで日本を訪れて以来、来日はしていない。だが、旅とハイキングは彼の生活のなかで大きな比重を占めているようだ。

「ハイキングを始めたのは14歳のころ。標高8,000m以上の山に登ることを夢見ていたんだ。最近、トロムソ島から30分ほどの場所にある山を散策したけど、そこは人がいなくて、前人未到の山の頂まで登ることもできる。だけどこのエリアに発電所を建てようと電力会社が押し寄せているから、将来的にはこのエリアも破壊されてしまうだろうね。渓谷に道路が敷設され、パイプがあちこちに散らばっている状態…。悲しくなるね」。

ゲイル・イェンセン Geir Jenssen
1962年ノルウェー生まれ。北極圏のサウンドスケープを表現するアーティストとして知られるアンビエント・エレクトロニカの音楽家。1994年に『Patashnik』、1997年に『Substrata』をリリースし賞賛された。最新作は2011年に発表した『N-Plants』。現在、ポーランドのクラコフを拠点に活動している。http://www.biosphere.no/

Biosphere: Genkai-1 (official video by Egbert Mittelstädt) from Geir Jenssen / Biosphere on Vimeo.

※この記事は『PAPERSKY No.37』に掲載されています。
Text: Max Alexander Berg

Tags: , ,









屋根裏部屋の誇り

野地板と呼ばれる4mの杉板を三角形に組み合わせて垂直に立てる。下に置いた新聞紙に火をつけると、発生し… »STORY

ノルウェー|Detour わざわざ訪れたい寄り道旅

北欧の国々は、すぐれた名作チェアやプロダクトをはじめ、著名な建築家やデザイナーを数多く排出している。… »STORY

旅の終わり~ ベルゲン|BRUNO自転車 北欧旅レポート vol.5

BRUNOがサポートする輪行女子世界旅、畠山準弓さんから旅のレポートが届きました。一ヶ月北欧を巡る旅… »STORY

最後の訪問地ノルウェーへ|BRUNO自転車 北欧旅レポート vol.4

BRUNOがサポートする輪行女子世界旅、畠山準弓さんから旅のレポートが届きました。いよいよ最後の訪問… »STORY

HELLY HANSEN|HERITAGE vol.3「FIBERPILE®」

現在のアウトドアシーンに欠かせないフリースのルーツは、1961年にヘリーハンセン社が開発した「ファイ… »STORY

HELLY HANSEN | HERITAGE vol.2「LIFA®」

フリースの祖先と言われる、保温・断熱素材「ファイバーパイル」の誕生(1961年)以来、ヘリーハンセン… »STORY

HELLY HANSEN | HERITAGE vol.1「HELLY TECH®」

ノルウェーの商船隊の船長だったヘリー・J・ハンセンは、37歳で船乗りをリタイアし、港町モスで小さな工… »STORY

ノルウェーのクリエイターライフ|オイスティン・アウスタッド

ノルウェー発祥のアウトドアブランド、ヘリーハンセンと、自然とともに暮らすノルウェーのクリエイターを訪… »STORY

サーメランドで撮影した津田直写真展「SAMELAND」

写真家・津田直の写真展「SAMELAND」が、2/14(金)より恵比寿のPOSTにて開催されます。極… »STORY

ノルウェー発のハイテク・スノーシュー Fimbulvetr

ノルウェーのメーカー「Fimbulvetr」が製作したスノーシューの進化系。弾性に富んだエラストマー… »STORY

大地の恵みを食卓へ|北欧ノルウェーのクリエイターライフ vol.2

ノルウェー発祥のアウトドアブランド、ヘリーハンセンと、自然とともに暮らすノルウェーのクリエイターを訪… »STORY

北のニルヴァーナ|Norrøna Magazineより

『リンゲン・アルプスを体験せよ。それはまるで、命令のようなメッセージだ。』 それは、2004年2… »STORY

ヘリーハンセン・アンバサダー募集|think!キャンペーン vol.3

11/6より開催中のHELLY HANSEN「think!キャンペーン」vol.3では、自然と共存す… »STORY

HELLY HANSEN「think! キャンペーン」vol.3

ノルウェーには"フリルフスリフ"という伝統的な考え方があります。これは、ありのままの自然のなかでシン… »STORY

「Oslo, August 31st」を日本初上映、Norwegian Outlet

原宿VACANTにて、ノルウェーのアート、デザイン、映画、ファッション、音楽などを紹介する展覧会「N… »STORY

北欧ノルウェーのクリエイターライフ | タニヤ・セーテル

「フリルフスリフ」とは、ノルウェー語で「ありのままの自然のなかでの暮らし」という意味をもつ。美しくも… »STORY

Norrøna Magazine バックナンバー紹介

ノルウェー発のアウトドアブランドNorrøna(ノローナ)が刊行する「Norrøna Magazin… »STORY

ノルウェー発 Norrøna Magazine 日本語版が発刊

ノルウェー発のアウトドアブランドNorrøna(ノローナ)。1929年にノルウェーのアウドドア愛好家… »STORY

ノルウェーのヴィンテージデザイン展「NOREWEGIAN ICONS」

6/21より代官山のヒルサイドフォーラム&ギャラリーにて、ノルウェーのヴィンテージデザインを集めた展… »STORY

HELLY HANSEN「refresh tripper キャンペーン」

北欧ノルウェー生まれのアウトドアブランドHELLY HANSENが、「refresh tripper… »STORY

HELLY HANSEN

HELLY HANSEN 北欧ノルウェーの自然とともにある暮らし

北欧ノルウェーの人たちは、自然の楽しみかたをよく知っている。週末になると家族や友人同士で、水辺や森に… »STORY

KYOTO

オスロが出現!? TNF globe walker 12月の展示

旅をテーマにしたセレクトショップ THE NORTH FACE globe walker (京都藤井… »STORY

マップでめぐるオスロ | +10 City Maps No.4 Oslo

PAPERSKYがセレクトしたおすすめのショップやレストランなど、マップを通じて街の魅力を伝える「+… »STORY

HELLY HANSEN

HELLY HANSEN「think! キャンペーン vol.2」

think!キャンペーンは、HELLY HANSENが約50年前に製品化した「ファイバーパイル」の復… »STORY

HELLY HANSEN × PAPERSKY くるみボタンづくりワークショップ

HELLY HANSENの生まれ故郷、北欧ノルウェーは、美しいフィヨルドに囲まれた自然の王国。そこに… »STORY

HELLY HANSEN 原宿店がオープン

HELLY HANSEN初のフラッグシップショップとなる「HELLY HANSEN 原宿店」が、4月… »STORY

name
ノルウェー

© 2008-2018 Knee High Media. All Rights Reserved.