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木を知り尽くし、木に親しむものづくり―マルニ木工

広島の木工家具メーカー、マルニ木工は5月に東京のショールームで展覧会を行い、4月のミラノサローネ国際家具見本市で発表された MARUNI COLLECTION 2011 の新作「Roundish」と「Lightwood」 […]

07/08/2011

広島の木工家具メーカー、マルニ木工は5月に東京のショールームで展覧会を行い、4月のミラノサローネ国際家具見本市で発表された MARUNI COLLECTION 2011 の新作「Roundish」と「Lightwood」シリーズを国内で初めて披露した。会場ではショールームの1Fとリニューアルオープンした地下フロアで製品が展示され、2Fでは製造工程・各パーツの構造などが詳しく紹介された。実際に椅子やテーブルを試しながら、技術的な構造を詳しく知ることができる。
すっきりとした木組みとシンプルな座面の組合せが、いかにも素朴な軽やかさを感じさせる「Lightwood」。一見、硬い質感を想像させるが、座ってみると座面の張りがちょうどよく、背もたれも心地よい。座面も、ウェービング・メッシュ・ファブリック・レザーなど豊富なバリエーションが揃い、各シートのビジュアルを見比べているだけでも楽しい。
一方で「Roundish」は、無垢材の加工を得意とする同社としては珍しい成形合板を用いた椅子。デザイナー、深澤直人氏の提案・デザインにより何度も試作が繰り返され、高度な技術による合板加工と無垢材の組合せ、精巧な曲面が実現した。実際に椅子に腰掛けて身を預けると、本来は別々であるはずの座面と背もたれが、まるで一つの曲面のように身体を包み込む。ぱっと見の印象からは想像がつかないほどの優れた座り心地を持つ椅子だ。
そんな2つの新作シリーズを世に送り出した広島の木工家具メーカー、マルニ木工―広島市から西、もともと林産業に深い関わりを持つ廿日市から、山間を上って行った先に本社・工場を構えている。敷地内には加工を待つ木材が整然と積み上げられ、工場内ではそれぞれの持ち場で職人達が自在に機械を操りながら黙々と作業を進めている。まるで小さな工房の集合体のような、手作りと機械生産の融合した空間だ。
私たち人間にとって最も身近な素材であり、生き物のぬくもりを感じさせる「木」。職人達の高度な技術が可能にする新しい素材や加工への挑戦。その一方で、自然の木を用いて大量生産品を作る上では避けて通れない環境問題。更には「椅子に座る」という西洋家具の歴史への挑戦。日本で木工の洋家具を作るメーカーとして、83年の歴史を持つマルニ木工がどのような意志をもって今回の新作を発表したのか、同社の広報担当に話を聞いた。
※それぞれのシリーズで、椅子とテーブル両方が発表されているが、本稿では椅子のみをとり上げる。
【インタビュー】
── 「木を使う」ということに関して、御社では計画伐採材の使用、森林認証の取得など様々な取り組みを行っていると伺っています。しかし一方で「木を切る」事に関しては様々な環境保護キャンペーンが行われており、一般にはマイナスのイメージと結びつきやすい側面は否定できません。
現代では、木材だけでなく、金属やコンクリート、石油製品などあらゆる資材が選択肢にありますが、御社が「木」に拘り続ける最大の理由は何でしょうか。

私たちは83年間木と向き合い続けてきましたが、家具に最も適する素材は「木」だと考えています。自然素材が人に与える安らぎはもちろんのこと、木は家具へと形を変えても呼吸をし、人と同様に経年変化し、使う人との関係によってより美しく変わり続けることが出来ます。それは使い手にとっても魅力的なことではないでしょうか。
そしてご指摘の通り、環境保護の面も考慮し、主要木材を再生可能な森林から伐採されたものへ切り替えつつあります。80年~100年の時間を経過して育った木ですから、「100年後も『世界の定番』として認められる」、そんな木工家具を創造し続けようと考えています。
── 深澤直人氏、ジャスパー・モリソン氏共に、木を積極的に用いて作品を制作している印象はこれまでありませんでした。彼らにとって、木工メーカーである御社と組むことの魅力はどのような点にあると思われますか?
私たちには「工芸の工業化」という創業者の言葉があります。その言葉通り、工芸と言う緻密で繊細な領域を、機械加工と手作業の良さを最大限に引き出すことで工業化してきました。そこにはこだわり磨き続けてきた「徹底した精緻なモノ作り」という工場の特性があります。私たちにしか出来ないそのような正確で緻密な木工技術は、デザイナーが今までやりたかったけれども困難であった木工家具を具現化することに繋がりました。
── Lightwoodシリーズでは使われている木材の量が少なく、見た目にも軽さが強調され、御社のラインナップの中でも特異なキャラクターを持っていると思います。
御社はこれまでどちらかと言えば重厚感のあるリッチな印象の家具を中心に制作されてきていると感じていましたが、今回の新作にどのような可能性を期待されていますか?
(新たな顧客層/使用される場所など)

私たちはホームユース向けの家具がメインですが、Lightwoodは価格も構造もコントラクトユースに向いています。バリエーション豊かでメンテナンス性に優れたシートや、丈夫でありながら2.5kgという取り扱い易さはコントラクトなど多くの家具を使う場所では、大きな利点となります。
また、価格やその軽やかさから、都会などで比較的コンパクトな住居にお住まいの方にも受け入れていただき易いと考えています。
── Roundishでは合板を主に使用されています。御社のこれまでの家具作りを見ているとかなり意外に感じました。これは、デザインのコンセプトを実現するための合理的な選択だったということでしょうか。それともコスト(価格/木の使用量)をより強く意識したものなのでしょうか。技術的な難易度など特筆すべきことがあればそれもお知らせいただければ幸いです。
現在の木工家具は大きく無垢と成形合板に大別されます。そしてそれぞれに特性と利点があります。私たちは削り出しなどによる無垢材加工を得意としていますが、今後も木工メーカーとして続ける上で、合板に取り組まずにいることは難しいと考えています。今回デザイナーである深澤さんは、デザインに最適な素材として合板を選ばれました(実際にあのカーブを無垢で作ろうとすれば、大きな木の固まりから削り出していくことになり、材がかなり無駄になります)が、合わせて私たちへの提案でもあり、私たちもその意味を理解し、マルニ木工らしい合板を模索しました。通常の合板よりも厚みがあり、木口の面取り加工は全て人の手によって優しく丸みがつけられています。さらにオーク材のタイプは、オークならではの荒々しさを感じられるような仕上げにしています。
また、合板と無垢材との組合せがRoundishの特徴でもあり、合板の曲線に無垢材をぴったりと合わせることは見た目以上に高い技術と緻密な作業が必要となります。
ご質問のお答えとしてはデザインに適しているということと、コストと両方ですが、さらに私たちが取り組むべき課題へのチャレンジでもありました。
── 座り心地に関して、これまで御社が製作してきた椅子を拝見していると、海外メーカーのような工学的、ビジュアル重視のアプローチよりも、心理的な座り心地をより重視されているように感じます。
例えば今回の新作Lightwoodチェアの革張りに座ると特別落ち着いた気持ちになったり、
Roundishチェアに座るとほんとうに体が包まれるような感覚を覚えたりします。
「人が座る」ということに関して御社が追求するもの、ポリシーなどあれば最後にぜひお聞かせください。

椅子は人が最も触れる家具であり、使い手が長く時間を共有する家具です。だからこそ、座り心地にはこだわっています。いくらデザインが素晴らしくても、座り心地が悪ければ、その椅子には座らないでしょう。深澤さんにも言われましたが、若い頃は気にならなくても、年配の方が座布団を挟んだり、クッションを使ったりするのは、無意識に身体が座り心地の悪さに気付いていて、その結果の行動だと思います。座り心地は長く愛されるための必要条件なのです。私たちはそのような家具作りのために、デザイナーの優れたデザインとメーカーの木工技術が相互に高め合うような製品作りを意識しています。美しいだけではない、使う人と時間をかけて良い関係を築いていける家具です。それは人が感じるモノとの幸福な関係であり、国や文化を越える共通の価値だと考えています。