Menu Links
  • MOROCCOPhotography: Papersky

CARAVAN|刷り込まれた価値観が、剥がれていく瞬間

, 2011/02/22

幼少時代を南米ベネズエラの首都カラカスで過ごすという一風変わったルーツを持ち、その後も転々と放浪生活を続けてきたCaravan。彼がさまざまな土地を旅し続ける中で得たひとつの答え、それは自分自身が「日本人である」という、あたりまえの事実だった。ブルースに根ざしたアーシーな曲の数々は、帰るべき場所を持たずに暮らしてきた彼の、ホームタウンへの憧憬そのものなのかもしれない。モロッコから帰国した直後の彼に、話を聞いた。

スークの混沌と、砂漠の静寂。モロッコの多様性を感じた旅

──最近モロッコを旅したそうですね?
「そうです、1週間ちょっとの短い旅ですけどね。アムス経由でカサブランカからマラケシュへ。前から行ってみたいとは思っていましたが、なかなかきっかけがなくて。でも最近いろんなところでモロッコの話が出るようになって、これはいいタイミングだなと」

──初めてのモロッコは、どんな印象の国でしたか?
「昔の日本の下町っぽい人情がすごくある国。例えば、スーク(市場)で商売をしているベルベル人のおじいちゃんが、僕みたいなよそ者の旅人が歩いていると「どこから来たの」ってお茶を出すことがあたりまえなんです。それが心地よくて。本当のところ、どういう気持ちでそんな風にしているのかはわからないけれど、僕たちがずっと昔に置き忘れてしまっていた人間くさいコミュニケーションがモロッコにはまだありました」

──30年くらい前までは日本にもそんな雰囲気がありましたよね。砂漠にも行かれたそうですが、一面の砂の世界は、どうでしたか?
「見たことないくらい何もない世界でした。まるで無音の部屋に入ったみたいで、風の音と、自分の歩く音しか聞こえない。たまたま満月だったから、夜になると砂漠が海みたいに青いんです。はじめは怖かったんだけれど、すぐに快感っていうか、気持ちよくなって。砂漠のなんにもなさと、街のすごく混沌とした感じ。ひとつの国なんだけど、コントラストがきついというか、そのギャップがすごく面白かったですね」

──そうしたギャップや、文化の違いにストレスを感じる人も多いですが、Caravanはすぐにその国の文化にアジャストできる方?
「うーん、そうですね。わりとすぐに馴染んじゃう方です」

 
ホームがないことで見えた、本当の自分の居場所

──ところで、曲に旅というキーワードがよく登場しますが、旅というものを意識したのはいつ頃からですか?
「『旅』を具体的に意識したのは物心ついてからだけど、感覚的にはもっと小さい頃からあったような気がします。思えばずっといろいろな土地を転々としている生活で、日常的に自分のホームがないような状態で過ごしてきたから。例えば転校しても、きっとまた次にどこか行くんだろうなとどこかで考えていて。そういう意味ではいつでも自分の居場所を探している感じはありました。でも今は自分の居心地のいい場所を探せる自由さを感じてるかな。ホームがなかったことが幸いして、自分の好きな場所を自分のホームにすることができる。自分の居場所は自分で決めるものだということが実感としてわかってきました」

──なるほど。では、どういうスタイルの旅が好きですか?
「以前は一人旅がすごく好きだったけど、最近は家族や心を許せる人と数人で行く旅が多くなりました。人がいることで自分がわかる。一人旅はよくも悪くも自分の世界に入ってしまうけれど、人と一緒にいることで自分のいいところも悪いところもよくわかるんです。面倒くさいけど、楽しい。それに、やっぱり“旅行”じゃなくて“旅”をしたいというのが常にありますね。ツアーの便利さもあるけど、無駄や苦労がたくさんあったとしても自分で決断できる方が、よりその土地の匂いとか空気とかを体感できる気がして。現地の人たちや、その生活がぐっと近づく。自分の物差しが壊れる感じっていうか。結局自分って何も知らないなっていう気持ちよさみたいなものもあるし、なんかそういう方が、大変だけど帰ってきたときに持ち帰るものが多いような気がします。」

 
文化は見てくれじゃなく、人々の内面にあるもの

──旅のスタイルも、年とともに柔軟に変化してきたんですね。今まで一番印象に残っている旅は?
「初めて旅をしたアメリカ。ブルースとかカントリーとかにはまったちょっとませた高校生だったから、テキサスに行って本場ブルーグラスに触れたくて。そのときはアメリカかぶれでね、ラングラーのジーンズにトニーラマ履いて、でかいバックルつけて行ってみたら、みんなナイキのスニーカーに短パン(笑)。奇妙な目で見られました」

──自分が思い描いていたイメージと現実が、あまりにもかけ離れていたんですね。
「そう。はじめは肩すかしだったけど、楽器屋で試奏している子供がブルースのフレーズを格好よく弾いていたりして、そういう文化が本当に根付いているという感動がありました。文化って格好じゃなく、
内面にあるものなんだなって。それを表面だけ気張ってまねしようとしていた自分が恥ずかしくなった。旅は、行ってみないと理解できないことがたくさんある。今回のモロッコだって、ある意味すごくいいかげんで雑だし、決して清潔ではないのに、なんかこう、高ぶる感じがあって。道にゴミが落ちてないとか、階段の横に必ずエスカレーターがある日本がむしろ特殊で、人間の便利さにとことん合わせて作られた感じが、逆に不自然だなと感じたんです。刷り込まれている価値観みたいなものが、旅を続けるうちに剥がれていく感じが、気持ちいい」

──地元のミュージシャンたちと突然のセッション、というような経験は?
「基本的に旅に楽器は持っていかないんです。単純にライブを見に行ったりはするけど。海外で音楽をやりたいという願望もそんなにないし。単純に旅はいち旅人として行く感じですね」

──そうなんですか、それは意外ですね。それじゃ、旅が自分の作る音楽に還元されることはある?
「やっぱりそれはあります。具体的にその土地の音楽に影響されるわけではないけれど、景色や風景からイメージが膨らむことは絶対あると思う。「旅について」ってそのものズバリの曲もあるし、「FEED BACK」って曲も、旅に出たからこそ書けた曲」
 

行ってみなきゃ、分からない。だから、旅に出る

──そもそも、なぜ旅に出たいと思うんですか?
「単純に違う場所が見たいからです。もちろん楽じゃないし、金もかかる。いいことって意外とそんなになかったりする。でも行ってみないとやっぱりわからないことが絶対あるんですよね。風景もそうだけど、別れ際の切なさとか、帰ってきたときの安堵感とか。帰ってから自分のいる場所が、客観的に見られるようになったりね。そういう感覚がすごく好きですね」

──“帰る”という言葉を使うってことは、今は日本がホームタウンという意識があるんですね。
「もちろん。日本という国をすごく気に入っています。海外では、日本人ってすごくスピリチュアルな民族という印象があるみたいなんです。戦争をしないことや、仏教への考え方とか、ちょっと一目置かれている。海外の多くは強烈な神への信仰があって、それがルールだから秩序はあるけど、ほかの考え方は入れないみたいなものがあるような気がします。それに比べると日本は柔軟で、考えの違う人を普通に受け入れている。旅をすることで、日本の素晴らしさにも気づくんです。どこかに行けば行くほど、やっぱり自分は日本人なんだって、強く感じますね。モロッコで山の中をヤギや羊を20匹くらい連れてすごい崖を一日中歩いている遊牧民の子がいたりとか、そういう人の営みって美しいって思う。けど、東京で暮らしている人も、多分本質的には一緒な気がします、ただ手法が違うだけで。クリエイトしていたり、人に何かを伝えようとしてたり、残そうとしてたり。生きるっていう作業はきっとどこでも一緒なんだと思います」

──旅を続けることで、普遍的な事実が見えやすくなるんですね。では、現在はどんなことを伝えたいと思って曲を作っていますか?
「自分で歌うようになってからは何かを伝えたいと強く思うようになりました。それまでは楽器がプレイできて、みんなとつながる手段を得て、それだけで十分だったんだけど。やっぱり聞いた人が共感してくれたら嬉しい。ただ、誰かに伝えているというよりも、どこか自分に向かって言っていることが多いのかもしれない。日記のような感じですね。とにかく日本語でやっている以上、日本で同じような環境で生きている人に何かを伝えられたらと思う。日本人が共感できる音楽。日本語はすごく奥深い言語ですよね」

 
いつかは自分のルーツ、ベネズエラを旅してみたい

──もしミュージシャンにならなかったらどうやって暮らしていたと思います?
「子供のときから電車とかバスとか飛行機とか、タクシーとか、運転手に憧れがありました。もともと移動が好きなのかもしれない」

──根っこは旅人なんですね。
「落ち着きないですね(笑)」

──今行ってみたい場所はどこ?
「今は、南米か、もう一回モロッコ」

──南米は自分のルーツですよね。幼少時代を過ごしたベネズエラを訪ねる旅は?
「ぜひ行ってみたいです。ベネズエラから入ってアルゼンチンとかまでい行けたら最高ですね」
 

Caravan
ミュージシャン。1974年生まれ。幼少時代を南米ベネズエラの首都カラカスで育ち、その後 転々と放浪生活。独自の目線で日常を描く、リアルな言葉。聞く者を旅へと誘う、美しく切ないメロディー。club music世代ならではのリズム感覚。様々なボーダーを超え、一体感溢れるピースフルなLive。世代や性別、ジャンルを超えて幅広い層からの支持を集めている。これまでDonavon Frankenreiter、Calexico、Tommy Guerrero、Ray Barbee、Beautiful Girls、SLIP、Sim Redmond
Bandなど、多くの来日アーティストのオープニングアクトや共演を果たし、YUKI「ハミングバード」「ワゴン」、SMAP「モアイ」を始め、楽曲提供も手掛けている。www.caravan-music.com

インタビュー&構成:須藤亮
Interview& text: Ryo Sudo

Tags: ,









山で見つけた、謎のスパイス 45épices|PAPERSKY food club

前々回のコラムでクスクスのお話をした、モロッコの旅。その旅には他にも目的がありました。モロッコの中北… »STORY

クスクスの美味しい蒸し方 |PAPERSKY food club

この10月、3年ぶり4回目のモロッコへ行ってきました。今回は1ヶ月の長い滞在でしたが、特に予定も入れ… »STORY

MOROCCO

音楽の村へ|モロッコ・砂漠の昼

でこぼこの砂地の道を走り、タマネギやアルファルファなどが植えられた小さな畑や四角い土の箱のような家が… »STORY

脳内モロッコトリップができる調味料“HARISSA”|PAPERSKY food club

ここ最近、ずっとつくり続けている調味料がある。北アフリカ料理ではよく使われている「HARISSA(ア… »STORY

naiad story vol.4 アルガンオイル 自然と人とのつながり

アルガンの木はモロッコのみで生育する植物で、シアバターで知られるシアの木と同じアカテツ科の樹木。7~… »STORY

モロッコ料理の名脇役|PAPERSKY Food Club

モロッコ料理に欠かせない伝統的な調味料にプリザーブドレモンがある。甘いジャムではなくて、たっぷりの塩… »STORY

naiad story vol.2 ガスール 大地からのおくりもの (2)

モロッコを原産とし、肌や髪をうるおすスキンケア素材として、古くから愛用されてきた粘土「ガスール」。今… »STORY

PAPERSKY読者限定、ナイアード「ガスール」プレゼント

モロッコの大地が生んだ、肌を潤す粘土「ガスール」。暑い夏の日差しでうっかり日焼けしてしまった肌のケア… »STORY

naiad story vol.1 Ghassoul ガスール 大地からのおくりもの (1)

地中海と大西洋に面した北アフリカの国、モロッコを原産とし、肌や髪をうるおすスキンケア素材として、古く… »STORY

MOROCCO

モロッコ南部にしかない貴重なアルガンオイル

マラケシュからエッサウィラに向かう道の途中、雄大な草原にブロッコリーのような木がポコポコと並ぶ不思議… »STORY

MOROCCO

職人のワザが光るモロッコの伝統菓子

結婚式や特別なお祝いのとき、モロッコではアーモンドと小麦粉と砂糖がベースのシンプルで小さな焼き菓子が… »STORY

思わず、モロッコ郷愁 ‘Food Trip’ in Morocco

12月中旬のさわやかな晴天の東京で、ニーハイメディアの事務所兼アトリエにてモロッコ料理教室「Food… »STORY

MOROCCO

サハラ、遊牧民のライフスタイル|砂漠の朝

モロッコのもうひとつのライフスタイルを探しに、サハラにある街メルズーガを目指した。メルズーガにはサハ… »STORY

MOROCCO

職人たちの立てる音が響く集合工房

モロッコのメディナには、行商用の宿だった建物を複数の職人たちが仕事場として使っている共同工房がいくつ… »STORY

MOROCCO

モロッコのライフスタイルに触れるショップ「MICHI」

何世紀にもわたって、南アフリカから、アラビア半島から、ヨーロッパから異国の文化が流れついてきたモロッ… »STORY

MOROCCO

モロッコ、インスピレーションの宝庫に迷いこんで(No.26)

およそ100年にわたって、アフリカ人、ベルベル人、ユダヤ人、アラブ人、ヨーロッパ人が互いに調和しなが… »STORY

MOROCCO

有元くるみさん、モロッコのマーケットで

茅ヶ崎にて洋服・雑貨の店「griot」(グリオ)を主催する、有元くるみさん。数年前からモロッコ・マラ… »STORY

place
モロッコ

© 2008-2018 Knee High Media. All Rights Reserved.