Photo ×3: Yohei Naruse

第2回マウンテンクラブイベント 燕岳スケッチ登山

すっきりと晴れ渡った9月4日(土)5日(日)、マウンテンクラブの第2回イベントが北アルプスの燕岳で行われた。今回のテーマは「山を描く、山で描く」。燕岳は畦地梅太郎、熊谷榧のほか、さまざまな芸術家に愛された山。そんな燕岳にスケッチブックを持って登ろうという企画である。
今回は愛知、岐阜、東京から合わせて8名が参加。早朝、山麓の穂高駅に集合し、中房温泉から合戦尾根を登る。合戦尾根は北アルプス3大急登のひとつ。燕岳は歩行時間も比較的短く、北アルプスのなかでは初心者でも登りやすいものの、急な山道が延々と続く。途中のベンチで大休止し、スケッチブックを開いて絵を描く。画材は鉛筆、色鉛筆、水彩絵の具、クレヨンなど、好きなものを使う

日常生活の中で絵を描く機会はそれほど多くない。絵を描くのは中学生以来という声もあったが、森の木々や登り始めてから食べた行動食など、手を止めることなく思い思いに絵を描いていく。合戦小屋で名物のスイカにかじりつき、元気を取り戻してから今宵の山小屋、燕山荘へ。山にかかっていたガスも稜線に辿り着くと晴れ、小屋からは花崗岩の奇岩がオブジェのように林立する燕岳の頂上、鷲羽岳や三俣蓮華岳、槍ヶ岳などの山々が一望できた。コーヒーを入れながら、山小屋の前でスケッチブックを広げる。

「山の風景ってほんとうに刻一刻と変わるんですね。色とか、霧とか、光とか」
北アルプスは初めてだという女性がそう言う。ただ黙々と歩いていたのでは、風景の移り変わりをそれほど敏感に感じるものではない。絵を描くということは、じっくりと対象を見るということ。そうすることで、今までは気がつかなかった新しい世界が見えてくる。
燕山荘には、畦地梅太郎や熊谷榧の作品など、いたるところに多くの絵や版画が飾られている。まさに日本で一番芸術と深い関わりのある山小屋だろう。そんな山小屋の雰囲気に浸りながらおいしい夕食を食べ、1日目を終了した。

翌朝は一面の雲海が広がり、見事な朝日を望むことができた。朝食を済ませて燕岳の頂上へ。真っ青な空の下、白い花崗岩の間を歩いていく。頂上に辿り着くと、遠く剱岳や白馬岳も望むことができた。頂上でお茶を煎れながらスケッチブックを取り出す。シンプルな線で描いた山の風景、頂上に佇む人々を抽象的に描いた作品など個性的な絵が次々と生まれる。
「今まで、山で絵を描くっていう発想はなかったんですが、絵になる風景、絵に描きたくなる風景というのは、山を見る新しい視点になりました」
「絵を描いていると、なんだかとても心が落ち着きますね」
「上手く」描けなくても良いと思う。腰を下ろしてじっくりと山を眺め、風や太陽の光を感じながら山に流れる時間をたのしむ。絵を描くことを通して味わえるその時間こそが、山で絵を描く醍醐味なのではないだろうか。

中房温泉へ下り汗を流した後は、安曇野ちひろ美術館へ。いわさきちひろも9歳で燕岳に登っているなど燕岳に非常にゆかりのある絵描きである。学芸員の方に美術館やちひろについて、ちひろと燕岳の関係についてなどの解説をしていただきながら展示を回った。ちひろ美術館で絵を観ていると、色の使い方、にじみ、ぼかし、鉛筆の線など常に何か新しい発見がある。そしてまた絵を描きたいと思うから不思議だ。

山を絵に描く、山で絵を描く。そこには、心の落ち着く豊かな時間と今まで気がつかなかった新しい風景がある。芸術家ゆかりの山を歩き、絵を描くことで、改めてそのことに気づかされた2日間は、天気にも、仲間にも、山小屋にも、温泉や美術館にも恵まれた芳醇な時間だった。そして、初めて会ったにも関わらず、昔からの友人のように終始笑いの絶えなかった山仲間と出会え、芳醇な山時間を共有できたことが、このイベントの大きな成果だったと思う。ここでの出会いを、次の山へと繋げていきたい。

次回のマウンテンクラブイベントは冬頃になる予定。乞うご期待!

Papersky Clubs
Papersky backnumbers
video