Photo ×5: Maria Laub

スローアップで過ごす、自由と解放と学びの日曜日

世界中どこを探しても、こんな国はないっ!と思えるほど、そこには幸せな時間が流れていた。車のない38km の道のりを自転車で。しかも仲間や友人、家族、総勢なんと26,000人と一緒に走ったのだから。
私たちが参加した「スローアップ」は、今年で開催11年目を迎えたサイクリングイベントだ。毎年4月から9月の6ヵ月間、春から秋にかけてほぼ毎週・隔週ペースでスイス全土をリレーする。2010年には16の町(エリアや州)が参加。4月25日、ベルンにほど近いムルテンで始まり、スイスとオーストリアに囲まれた小国リヒテンシュタイン、6月6日は私たちが訪れたヴァレー州、チーズで有名なグリュイエールやエメンタール、8月8日のジュネーヴ、9月19日のバーゼルでの開催を経て、9月26日チューリヒで2010年のスローアップを締めくくる。まさに、スイスの日曜日の風物詩なのだ。

自転車を乗せて列車移動する光景は、スイスではごく当たり前の日常。でも、この日ばかりは少し様子が違っていた。ホームにも列車にも、自転車を携える人が続々とやってくる。訪れたフランス語圏のシエールでは、参加者らしい人たちと「ボンジュール(こんにちは)」で挨拶を交わす。

ローザンヌやモントルーなどの町が連なるレマン湖から、南東に位置するヴァレー州は、全体の約40%以上というスイス随一のワインの生産量を誇る。ローヌ谷のほぼ中央にあるシエールには、ローヌ河に沿った谷にワインの産地が点在。斜面に広がるぶどう畑と太陽が、参加する人たちの気持ちを高める。スタート地点に掲げられたアーチの下では、ハンディキャップを負った人たちを乗せた特殊な自転車が集合し、朝10時の始まりの合図を待つ。市長やイベントディレクターのエリックさんの挨拶を終え、スローアップ・ヴァレーは華々しく開幕した。
「スローガンは、“Slow Down and Pleasure Up”。スピード下げても楽しさ(下げずに)上げていこう! 自転車が楽しいのはもちろん、身体によいものを食べ、いろんな人と交わり、よりよい暮らしを送るのは幸せなこと。そういう時間を共有することで、人々の“幸せ”を高めたいと思っています」

文頭で、「スローアップ」をサイクリングイベントとあえて表現したが、国をあげての催しは、たんに自転車で走るイベントではない。エリックさんは私たちと一緒に走りながら、ルート上の各ポイントについてガイドしてくれた。
「私たちの理念は、サスティナビリティ(持続可能な社会)の追求にあります。これだけ自転車に乗る人が多いスイス国内でも、その健康面では問題も多い。もっと外に出て身体を動かし、ふだんの正しい食事の摂りかたも知る必要がある。そこでルート上には給水所や自転車修理所はもちろん、休憩所をヘルシー・ビレッジとして設置。なんでも簡単に手に入るいま、生産者の顔が見えるものを必要なだけ消費する。地産地消、スローフード、食育を意識したワークショップも終日、おこなっています。肥満児のためのカウンセリングブース、子どもたちが身体を動かすための遊具やクライミング用の壁など、サイクリングを楽しみながらさまざまなことを学ぶ一日なのです」

休憩を含め約3時間のライドを終え、シオンに到着。一行も大興奮した、自転車を漕いでミルクシェイクをつくる催しでは、JURI さんも世界チャンプの脚力を披露。大げさかもしれないけれど、走ってつくる苦労を経験することで、この催しも自然エネルギーの偉大さを学ぶことができるひとつの試みなのかもしれない。

そういえば、スローアップがおこなわれる日はカーフリーデイ。大通りも駅前の道も、車が一台も走らない自転車旅は、それまで気持ちよく使っていたサイクリングロードを走るのとは、わけが違った。なんともいえない解放感、それこそストレスフリーで、自由な時間だった。シエールからシオン、シオンからシエールと一方通行のルートのどこで参加しても、抜けても自由。参加する自転車も、スポーツ車からママチャリも、子乗せ自転車までいろいろなうえ、インラインスケートやノルディックスキーで参加する人も多い。たくさんの人と一緒に走ることは簡単ではないけれど、スイスに訪れたら体験してほしい、スロー&フリーなハッピー・サンデーだ。

This story originally appeared in Papersky No. 33 (p38-41).

取材協力:スイス政府観光局
スイス インターナショナル エアラインズ
レイル ヨーロッパ ジャパン

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