Photo: Kaori Kai

小枝でつくる愛らしい絵柄ハンコ

ドウダンツツジ、茶の木、竹、桜、柿など、さまざまな木の枝が積まれた店先。すべてハンコの材料だ。東京の入谷にある伊藤印房は、昭和22年に開業した印章屋。伊藤睦子さんは、18歳で印章を掘り始めて、この道42年。女手ひとつで店を支えてきた。長年印章彫刻師としてやってきた伊藤さんが、新しい試みとして10年ほど前から始めたのが、この小枝でのハンコづくりだ。直径1~2cmほどの木の枝の断面に、動物や人の顔、お地蔵さまなどの絵柄を彫る。絵柄の脇にお客さんの名前を入れると、遊び感覚の小枝ハンコができるのだ。同じ柄でも、すべて手で彫るので、ひとつひとつが微妙に違う。木の枝も、さまざまな種類があるので、柔かい感触だったり、堅い感じがしたりと、手にした時の風合いがそれぞれ。何より、伊藤さんの彫る絵柄の愛らしさに魅せられる

今では従来の文字を彫る印章より、小枝ハンコの方が人気がある。それでも、歴史ある印章業界では、邪道といわれることも。「ここで店を構えて何十年もやっていくってことは、自分の作るものに対して責任を持つことでもあります。それなりの値段のものだもの。」緻密な作業をこなす繊細さを持ちながらも、伊藤さんは元気で活力あふれる女性だ。小枝をつかったハンコは妙案だけれど、そのアイディアだけで商品が売れているのではない。何十年も彫り続けてきて培われた、たしかな腕。その技術と、伊藤さんならではの可愛らしい絵柄が、人気の真髄だ。

最近の印鑑は、機械で文字を彫るため、同名では違いがなく、ハンコ本来の意味が失われつつあるという。役所や銀行の手続きも電子化が進み、印鑑要らずになるのも遠い先ではないかもしれない。

しかし、と思う。一方で、人の手のぬくもりを感じられるもの、ほかにはない自分だけのオリジナルが見直されている時代でもある。パソコンで打ったレターでも、片隅にこんなハンコが押してあったら、ふっと人の気持を優しくするのではないか。そんな温もりのある品だ。

伊藤印房 いとういんぼう
東京都台東区千束1-19-4
Tel: 03-3873-0489
8:30-18:30 日・祝休
www.ito-inbo.com

伊藤印房

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