5月になったら行きたいと思いつつ、毎年、行くことのできない山がある。それは新潟県沖の佐渡島に連なる大佐渡山脈である。佐渡島は「スプリング・エフェメラルの島」と呼ばれる。「スプリング・エフェメラル」とは、春のごくわずかな期間に咲き誇る、はかない小さな花々のこと。カタクリ、シラネアオイ、キクザキイチゲなど、4月から5月にかけての佐渡島は海岸から標高1000m前後の山のてっぺんまで、島全体が花々に覆われるのだという。また5月下旬から6月上旬には海岸にカンゾウの黄色い花が一面に咲き乱れる。厳しい冬に降り積もった雪が春の陽射しを受けて融けて大量の雪融け水がたくさんの花々を育むのだ。
佐渡島に憧れる理由は「スプリング・エフェメラル」だけではなく、そこが島であるから。島旅と山旅を一緒に楽しむことができるのである。船に乗りこみ、少しずつ大きくなる島影を眺めながら上陸。海抜0m から旅がはじまるので、山の標高が低くても充実した山歩きとなる。美しい海を近くに眺めながら島特有の自然や文化を味わいながら歩けば、いつもの山旅よりもちょっぴり刺激的になるだろう。佐渡島では、4月下旬から6月上旬までの花の時期にはライナーバスが運行されるので旅を快適にサポートしてくれる。島の山旅を楽しめるのは、利尻島、礼文島、佐渡島、伊豆大島、八丈島、神津島、小豆島、屋久島、石垣島など。北の島はまだまだ冬の装いだが、佐渡島より南は、これからが絶好の山歩きシーズン。首都圏からも比較的行きやすいのが伊豆諸島で、伊豆大島の三原山や神津島の天上山には火山活動による荒涼とした風景が広がり、別世界に迷いこんだかのような不思議な山歩きが体験できる。豊富な魚介類をはじめ、アシタバや島の焼酎も伊豆諸島の魅力だ。ひと味違った山旅をしたいと思っているなら、うららかな春の陽射しに誘われて島へ山歩きに出かけてみてはいかがだろうか。
成瀬洋平 Yohei Naruse
1982年、岐阜県生まれ。山を歩き、旅をする中で見聞きしたことを絵や文章で表現している。